羽毛布団の誤解を招く品質指標の説明

羽毛布団の品質を示す指標には、羽毛の種類やダウンパワー、ラベル表示などさまざまな項目がありますが、その意味や基準が正しく伝わっていないことも少なくありません。中には、販売側に都合よく表現された説明もあり、消費者が実際の品質を見誤る原因となっています。

ここでは、これらの指標の本来の意味や正しい見方を、専門的な視点からわかりやすく解説します。各指標を表す専門用語説明はリンクにて対応いたします。

ダックとグースのダウンの違い

ダックとグースの2種類のダウンの違いは、体格に応じたダウンボールの大きさと説明されることがよくあります。小型のダックダウンでも量を増やせば、グースと同等の保温力が得られると思われがちですが、実は大きさだけでなく羽毛の構造自体が異なります。

ダックの羽毛は、中心部の小羽枝が少なく、中が空洞になっているため保温性は劣ります。また羽枝が太く張りがあるため、ダウンパワー(dp)を測定する際には、実際の保温力に対して数値が高く出る傾向があります。

ダックとグースのダウンの違いをイメージした写真

ダウンパワー400dpはスタンダード

「ダウンパワーが400dpを超えれば高級、350〜390dpなら標準クラス」といった案内が広く見られますが、これは実際の品質評価とはズレがあります。

例えば、グースダウンで400dpという数値は、ようやく羽毛布団として心地よさを感じられる基準にすぎません。高級品と呼ぶにはさらに上の快適性や耐久性が必要です。

一方で、350〜390dpといったゾーンを“標準的”とする表現が、ダックダウン製品を無難な選択肢として見せかける手法に使われることもあります。購入しやすい価格帯であることもあり、売れ行きの良さがランキングの上位に繋がっているのが実情です。

しかし実際には、こうした製品で寒さや臭いに悩むケースも少なくなく、「安さ」と「標準クラス」で選んだ結果、満足できない買い物となることもあります。

実際に「ダウンパワー400dpがスタンダードの目安である」ことは、一般財団法人日本羽毛製品協同組合(日羽協)が定める「ゴールドラベル」によっても裏付けられています。ゴールドラベルは羽毛の品質をダウンパワーごとに4段階で評価しており、ちょうど400dpが高グレード帯と低グレード帯の分岐点となっています。

日羽協のゴールドラベル4種の中心となる基準値が400dpであることを示すイメージ写真

メーカー別マザーグース基準

マザーグースダウンとは、産卵用として飼育された親鳥から、主に2年目以降に採取されるダウンのことを指します。ただし、現状では「マザーグース」と名乗るための明確な品質基準や、ダウンパワー(dp)値による統一的な条件は設けられていません。

たとえば、西川株式会社ではマザーグースの条件をダウンパワー430dp以上としていますが、他のメーカーでは420dpが下限であったり、場合によってはそれ以下でも「マザーグース」と表記されていることがあります。

マザーグースダウンは1年に3回ほど採取されていますが、晩秋に採取されたダウンが上質であり夏に採取されたダウンはパワー不足です。マザーグースの羽毛布団を選ぶ際は、ダウンパワーの数値を必ず確認しましょう。

ポーランドのマザーグースの農場の写真

プレミアムゴールドラベルの真実

プレミアムゴールドラベルは、「ダウン率93%以上」「ダウンパワー440dp以上」「かさ高性1000mm以上」の3つの基準を満たした羽毛製品に与えられる最高ランクの認証です。使用される羽毛は、条件さえ満たせばダックダウンでも一般的なグースダウンでも対象となり、もちろんマザーグースダウンにも適用されます。

なお、プレミアムゴールドラベルが付いているからといって、必ずしも「マザーグースダウン」が使用されているとは限りません。勘違いしないように注意してください。

プレミアムゴールドラベルの写真

マザーダウンとは

マザーダウンとは、正式には「マザーダックダウン」のことで、「ダック」の表記を省いた名称です。そのため、「マザーグース」と混同しやすい呼び方といえます。特に、プレミアムゴールドラベルが付いていて440dpと説明されると、マザーグースダウンと誤認される可能性が高くなるため注意が必要です。

ホワイトダウンとは

ホワイトダウンとは、正式には「ホワイトダックダウン」のことで、「ダック」の表記を省略した名称です。グースダウンと勘違いしそうな呼び方です。

ヨーロッパ産ダウンの産地は?

「ヨーロッパのポーランドやハンガリーは羽毛の産地として高く評価されています」といった前置きのあとに、「このダウンはヨーロッパ産を使用」と説明されると、あたかも名産地の羽毛を使用しているかのように感じられるかもしれません。

しかし、こうした表現では実際にどの国の羽毛かは明示されておらず、複数国のブレンドや産地不明の可能性もあります。「ヨーロッパ産」という表現だけでは、具体的な品質や原産国は判断できない点に注意が必要です。

羽毛充填量と暖かさの関係

「この羽毛布団は、上質なダウンを通常1.2kgの標準充填量に対し、たっぷり1.5kgまで増量。非常に暖かい羽毛布団です!」――このようなセールストークに、違和感を覚える人は少ないかもしれません。そこには「羽毛は多ければ多いほど暖かい」という先入観が根付いているためです。

しかし実際には、羽毛の充填量にはダウンパワーに応じた適正値が存在します。100g程度の増量であれば保温性向上も期待できますが、300gもの増量は過剰であり、専門店の立場から見れば現実的とは言えません。

羽毛布団の暖かさレベル

羽毛布団の暖かさは、羽毛の種類、ダウン率、ダウンパワー、充填量、側生地のフィット性、キルト構造など、様々な要素によって左右されます。これらの情報は、メーカーの信頼性にも大きく関わる重要な指標です。

ところが市場には、ダックダウン93%・ダウンパワー400dp・充填量1.0kg、側生地がポリエステルと綿の合繊で立体一層キルトという仕様で、「最高ランクの暖かさ」と表示された製品も見られます。筆者の見解としては、この構成では真冬には寒さを感じやすく、実際の暖かさは10段階でレベル4程度と判断されます。

もちろん、メーカーごとに暖かさの基準は異なるため一概に誤りとは言えませんが、購入者が誤解してしまう可能性は高いと言わざるを得ません。

羽毛布団の暖かさの目安を知るには下記ページをご案内します。

羽毛布団の暖かさレベルを診断
羽毛布団の暖かさを診断ツール

羽毛布団の暖かさレベル診断!羽毛の種類とダウン率、ダウンパワー、充填量、キルトで暖かさがわかる

羽毛の洗浄度と臭いの関係

羽毛の洗浄度とは、洗浄後の水の透明度を示す指標で、「1000mm」とは水の透明度が100cmあることを意味します。これは羽毛の表面に付着した汚れや雑菌が、しっかりと洗い落とされているかを示す目安になります。

一方、羽毛特有の臭いの原因は、羽毛内部に含まれる油脂分にあります。表面の油脂は洗浄によってある程度除去できますが、核の内部に残る油脂分を取り除くには、強力な洗浄剤を用いる必要があります。

しかしこの油脂分は、髪の毛におけるトリートメントのような役割を果たし、羽毛が裂けてしまう「枝毛状」の劣化を防ぐ働きがあります。そのため、多くのメーカーは羽毛の耐久性を保つために、適度な油脂分をあえて残しています。このため、高品質な羽毛でも、わずかに臭いが残ることがあります。

臭いが強い羽毛の多くは、油脂分を多く含んだ未成熟ダウンが原因です。こうしたダウンは、過度に洗浄すると壊れやすくなるため、臭いを完全に取り除くことが難しいのです。結論として、羽毛の臭いの主な原因は「洗浄不足」ではなく、「未成熟ダウンの使用割合が多いこと」にあります。

特にダックダウンの中でもダウン率が低い製品には、未成熟ダウンが多く含まれる傾向があります。臭いの問題を避けたい場合は、成熟した高品質なダウン(高ダウン率・高ダウンパワーで出来ればグース)が使用された製品を選ぶことが大切です。

ゴアラミネート加工の誤解

ゴアラミネート加工が施された側生地は、「空気は通すが微粒子は通さない」という特徴から、蒸れにくく快適で、内部の羽毛も清潔に保てるとされています。一見すると理想的な仕様ですが、実は側生地の表面には微粒子が残し、汚れの付着は防げるわけではありません。つまり、側生地自体は使用とともに汚れていくということです。

汚れた際にはクリーニングしたくなりますが、ゴアラミネート加工された羽毛布団は、クリーニング非対応となっています。購入後に「洗えない」と知って戸惑う前に、この点はぜひ購入前に確認しておきたい重要なポイントです。

純日本製羽毛布団とは?

市場に流通している「日本製羽毛布団」の多くは、実際には海外で側生地の縫製加工を済ませた半製品の状態で輸入され、国内で羽毛を充填し、吹き込み口を縫製して完成させたものです。側生地自体も海外製であるケースが少なくありません。

「羽毛の充填・縫製は国内で」とだけ説明されていると、純日本製のように受け取られてしまうかもしれませんが、実際には「羽毛の吹き込みと吹き込み口の縫製のみが国内」という意味である可能性が高いと考えられます。価格帯からもその背景がうかがえます。

本当に純日本製羽毛布団であることを伝えたい場合は、「国産生地を国内で縫製し、羽毛を充填して仕上げています」と明記するだけで十分です。側生地のマス目の縫製まで含め、どこまでが国内で行われているのか、商品説明を丁寧に読み解くことが大切です。

ランキングと羽毛布団のランク

羽毛布団を選ぶ際に、ランキングやレビューを参考にする方は多いかと思います。しかし、専門店の視点から見ると、ランキング上位に入っている羽毛布団の中には、品質面で首をかしげたくなる製品も少なくありません。実際、上位に並ぶのは、必ずしも上質な羽毛布団とは限らないのが現状です。

高級羽毛布団は価格帯が高いため、売上ランキングで上位に入ることはほとんどありません。この点を理解した上で、ランキング情報をあくまで参考の一つとして捉えることが大切です。

羽毛布団のランクと相場、コスパ的おすすめ羽毛布団の品質と選び方
羽毛布団のランクと相場価格

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羽毛布団を選ぶ際に「レビュー」を参考にする方は多いですが、情報の受け取り方には注意が必要です。特に羽毛布団のレビューの多くは、実際にその製品のみを使用した体験に基づく感想であり、他のグレードの羽毛布団と比較して書かれたものではありません。もちろんそれ自体が誤りというわけではなく、使用者の率直な声として参考になります。

ただし、より上質な羽毛布団の存在を知らずに評価している可能性もあるため、レビューだけで判断せず、羽毛布団のランクやスペックにも目を向けることが重要です。

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販売会社と製造会社の違いに注意

羽毛布団の「ダウン率」や「ダウンパワー」などの品質表示は、基本的に製造会社が独自に記載しているものです。そのため、布団選びの第一歩として、信頼できるメーカー名の確認が非常に重要です。

特に羽毛の吹き込み工程を担当した会社の名前は、品質に直結する重要な情報であり、日羽協のゴールドラベルの裏面には通常、その会社名が明記されています。

しかし、通販サイトでは製造会社名が一切記載されておらず、「販売会社=製造会社」と誤解を招く商品説明も少なくありません。寝具業界に詳しい人であれば販売会社や添付ラベルから製造元をある程度推測できますが、一般消費者には難しいのが現実です。

そもそもメーカー名を記載しない理由は何でしょうか?それは「消費者に知られたくない」からかもしれません。もし西川株式会社の製品であれば、そのブランド力を活かして「西川製」と明記するはずです。

羽毛布団を選ぶ際は、「販売会社=製造会社」と思い込まず、製造会社名の有無をしっかり確認することが、後悔しないための大切なポイントです。

まとめ

羽毛布団の選び方や品質表示には、消費者に誤解を与える表現が多く見受けられます。

たとえば、ダックとグースの違い、ダウンパワーの基準、マザーグース=プレミアムゴールドラベルの誤認、さらには羽毛の充填量や洗浄度、原産国の曖昧な表記まで、その実態を正しく理解することが重要です。

専門店が長年の経験をもとに、信頼できる情報と注意点を丁寧に解説しました。失敗しない羽毛布団選びのために、正しい知識を身につけましょう。

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