快適な睡眠を妨げる主な原因は「温度」、次いで「湿度」であるとされています。暑さ・寒さ・蒸れといった体感の不快さは、眠りの質に大きな影響を与えます。

理想的な寝床内環境は「温度32〜34℃・湿度50±5%」とされていますが、昨今では熱帯夜や大寒波、さらには春・秋の端境期における異常気象の影響で、この理想的な状態を維持することが難しくなっています。

こうした予測困難な気候変化に対応するには、寝具選びがこれまで以上に重要です。

本ページでは、夏の熱帯夜、冬の寒冷夜、そして寒暖差の激しい端境期など、年間を通じて直面する気象の変化に応じた寝具選びのポイントを、寝具専門店の視点からわかりやすくご紹介します。

暑さ・寒さに気温差に対応する寝具選びの基本

まず理解しておきたいのは、寝床内の熱のうち約6割以上が敷き寝具へと伝わり、残りの約4割は掛け寝具に伝わって放熱されるという点です。敷き寝具と掛け寝具のどちらも、体温を適切に調整するために欠かせない役割を担っています。

特に異常気象が常態化する現在では、寝具に求められる機能も多様化しています。なかでも、季節や気温の変化に対応できる温度調節機能は重要なポイントのひとつです。さらに、素材が持つ「熱伝導率(熱の伝わりやすさ)」、「吸湿・放湿性」、「通気性」といった性能を見極めて選ぶことが、快適な睡眠環境をつくるうえで欠かせません。

季節や気候が激しく変化する今だからこそ、自身の睡眠環境に最適な寝具を選ぶことが、深い眠りと健康を守る第一歩です。

羽毛布団が暖かく快適温度なのかを説明するイメージ図
羽毛布団はなぜ暖かく適温

羽毛布団が暖かくて快適な理由?羽毛の保温と温度調節の具体的な仕組みを図解します。

熱帯夜におすすめの寝具選びのポイント

熱帯夜の快眠には、エアコンなどで室温を適切に下げた環境を前提とした寝具選びが重要です。特に、熱帯夜においてはエアコンによる温度調節が不可欠であり、その上で快適な睡眠をサポートする寝具の工夫が求められます。

ここでは、夏の快眠を実現するために掛け寝具と敷き寝具に分けて、それぞれの選び方のポイントを解説しています。理想的な寝床内環境を整えるカギは、温度変化にできるだけ早く対応してくれる「空気の層」の存在です。

熱帯夜におすすめの掛け寝具

掛け寝具の主な役割は2つあります。ひとつは、体から発せられた熱を逃がしすぎずに、寝床内の理想的な温度(約32〜34℃)を保つこと。もうひとつは、エアコンの冷気から体を守り、冷えすぎを防ぐことです。

夏の掛け布団として代表的なものに「ダウンケット」があります。ダウンは優れた温度調整機能を備えていますが、側生地に使われる「ダウンプルーフ加工」には通気性が低いという欠点があります。そのため、特に熱帯夜には蒸れを感じやすくなることがあります。

放熱性や通気性、さらに適度な保温性を重視する場合は、中綿も側生地も100%麻で作られた肌掛け布団がおすすめです。麻は吸湿性・放湿性・熱伝導性に優れ、寝床内の蒸れや暑さを軽減してくれます。なお、中綿がポリエステル製の場合、吸湿性や放熱性が低く、蒸れやすくなるため注意が必要です。

次の選択肢としては、中綿約500g程度のシルク綿(真綿)布団が挙げられます。シルクは軽くて通気性があり、夏でも快適に使える素材です。特に、家庭で洗えるタイプを選ぶと、衛生的でお手入れも簡単なため、さらに理想的です。

タオルケットも夏の掛け寝具の選択肢のひとつですが、エアコンの冷気から体を守るという点では注意が必要です。最近ではガーゼの8重等の多層織りタイプもありますが、空気の層が薄いため保温性はやや低いと考えられます。

熱帯夜に適した掛け寝具のポイントは、エアコンの冷気から体を守る適度な保温性に加え、吸湿性・放湿性に優れ、さらに通気性と熱伝導性の高い素材であることです。汗をかきやすい夏場には、洗える(ウォッシャブル)タイプを選ぶのもおすすめです。

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熱帯夜におすすめの敷き寝具

寝苦しい熱帯夜に暑く感じるのは敷き寝具であり使わずにはいられない存在です。寝ていて暑く感じると寝返りを打ち敷き布団でも暖まっていない部分に移動して寝ていることでしょう。

この敷き寝具の温もりを解消するのは「空気の層」なのです。熱帯夜の敷き寝具はそれ自体が既に熱を持っていたり床からの輻射熱で暖まっていたりします。寝る前にはエアコンで敷き寝具の熱を取り冷ました状態で寝るようにしましょう。しかし、体からの熱が敷き寝具に伝わりどうしても寝返りを打つようになります。

体の直下に「空気層」を形成するタイプの敷きパッドは、熱帯夜の寝苦しさを和らげるために非常に効果的です。代表的なものとして、下図の3タイプが挙げられます。右から順に、ハニカム構造の立体パッド、中央は立体網目構造の中芯入りパッド、そして左が天然素材のムートンパッドです。

ハニカム立体構造の空気層をもつパッド 網目立体構造の空気層をもつパッド 空気層をもつムートンのパッド

ハニカムタイプおよび立体網目構造のパッドは、どちらもポリエステル系の素材が主であり、素材自体の熱伝導率はあまり高くありません。しかし、身体と接する面に空気層をつくることで、空気の循環により熱を効率的に発散させることができます。熱帯夜には快適に使えますが、明け方など室温が低下する時間帯には寝冷えを起こす可能性もあります。

一方、ムートンパッドは天然の羊毛を使用しており、毛の熱伝導率は約0.37とポリエステル(約0.2)に比べて優れています。さらに、毛と毛の間に自然な空気層が形成されるため、温度変化の激しい環境でも寝冷えしにくく、快適な睡眠をサポートします。

熱帯夜に避けたい敷き寝具の一つが、低反発ウレタン系マットレスへの直接の寝具利用です(シーツ等を掛けても同様です)。これらのマットレスは体を包み込むようにフィットするため、密着面が多くなり、体温がこもって蒸れやすくなり、暑さで快眠を妨げます。

通気性を確保するためにスリット(通気溝)を入れた製品もありますが、体圧によってスリットが塞がれてしまうため、実際には十分な効果が得られません。

寒冷夜におすすめの寝具選びのポイント

寒さ対策における寝具の役割は、敷き寝具が6割、掛け寝具が4割、場合によっては敷き寝具の方がさらに大きな割合を占めるともいわれています。どちらも、熱伝導率の低い「空気の層」をうまく活用することで、快適な寝床内環境を実現できます。

今回は「保温性」に主眼を置いて解説するため、寝具のサイズや、敷き寝具における寝姿勢との相性・硬さなどの要素については割愛します。寒冷夜において重要なのは、いかに効率的に体温を保持し、快適な寝床内環境を維持できるかという点です。

寒冷夜におすすめの掛け寝具

異常気象による大寒波が続く昨今、たとえ断熱等級4以上の性能を持つ新築住宅であっても、寒さによって快眠が難しいと感じる方は少なくありません。

寒冷地にお住まいの方は万全な防寒対策をされている場合が多いですが、記録的な大雪や急激な気温低下が起きる寒冷夜には、やはり高い保温力を誇る羽毛布団が強い味方になります。

羽毛布団は、体温を逃がさず寝床内を一定の温度に保つ特性があり、寒冷夜でも快適な眠りをサポートしてくれます。とくにダウンの種類やダウンパワー(かさ高性)に注目して選ぶことが、より高い保温性能を得るためのポイントです。

暖かい羽毛布団の品質条件(基準はシングルサイズ)

  • 羽毛品質:グースダウンまたはマザーグース。ダウンパワー400dp(マザーグースは430dp)、充填量は1.3kg(マザーグースは1.2kg)
  • 側生地:吸湿性に優れた超長綿。60番手以上、できれば80番手が理想
  • キルト構造:布団内部の仕切りは2層・3層構造、またはマス目を仕切る布の幅を広くしたハイマチキルト構造

詳しくは、こちらの羽毛布団の選び方のページをご覧ください。

寒冷夜向けのカバー・重ね使いの工夫

羽毛布団の性能を最大限に活かすためには、掛け布団カバーや重ね使いにも工夫が必要です。冬用の掛けカバーには、フランネルや起毛コットンなど保温性の高い素材を使用することで、冷気を遮断し、熱を逃がしにくくなります。また、ケット類には吸湿発熱繊維を使用した暖かいものも販売されています。

非常に寒い夜には、羽毛布団と軽量な毛布やウールケットを重ねることで、空気の層が追加され、さらなる断熱効果が得られます。ポイントは重ねる順番で、一般的には「身体→毛布(1重の薄いタイプ)→羽毛布団→薄手のケット」の順にすると、体温を効率よく保ちやすくなります。

寝室の環境や体感に合わせて調整しながら、自分に合った重ね使いを工夫することで、寒冷夜でも暖かく快適な眠りを手に入れることができます。

寒冷夜におすすめの敷き寝具

寒冷な夜において、体から発せられる熱のうち、6割以上が敷き寝具に伝わるとされています。この熱を適切にコントロールすることが、寝床内の温度を一定に保ち、快適な睡眠環境を維持するための重要なポイントです。

ここで問題となるのが、敷き寝具から奪われる熱の量です。たとえば、マットレスを床に直接敷いている場合と、ベッドフレームの上に敷いている場合とでは、熱の逃げ方に大きな違いがあります。

ベッドの場合、床との間に空気層があるため断熱効果が得られますが、床に直敷きしている場合は敷き寝具を通して体温が床に直接伝わってしまい、冷えの原因になります。そのため、床に直接敷く場合には、より高い断熱性能を持つマットレスの使用が重要です。

特に大寒波などで寒さが厳しい場合には、敷き布団の上に敷きパッドを重ねることで、保温効果を大きく高めることができます。ただし、使用する素材によっては熱伝導率や吸湿性の違いにより、蒸れが発生しやすくなったり、汗による気化熱で逆に体が冷える原因となることもあります。

この点において、ポリエステル系の起毛素材や中綿を使用した敷きパッドは、一定の保温性はあるものの、蒸れやすくなる傾向があり、その結果として汗による気化熱で身体が冷えてしまう可能性があります。そのため、寒冷夜に使用する敷きパッドとしては注意が必要です。

やはりおすすめなのは、吸湿性・保温性に優れた天然素材のウール系パッドや、さらに高機能なムートンパッドです。ムートンは体温を効率よく保持しながらも湿気を逃がすため、蒸れにくく快適な寝床環境を保てます。ただし、ムートンパッドは毛の密度や毛足の長さによって品質や性能に大きな差があるため、選ぶ際にはその点に注意しましょう。

高齢者とか寒がりの方の対策

若いときはなんともなかった寒さでも、加齢と共に温度調節機能が低下して寒くて寝られないと言う方も多くいます。高齢者の方には、寒さ対策のためには寝具メーカーから電気を使った温熱敷き布団がおすすめです。特に遠赤外線熱で体を包み込むタイプの物は高評を得ています。またムートンパッドとの組み合わせにより保温だけでなく調湿と体圧分散につながり床ずれ予防にもなります。

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応急的な床暖房

10年に一度の大寒波など、寒さが非常に厳しい夜には、布団に入ってもなかなか眠れないことがあります。こうした寒冷な状況においては、簡易的な防寒対策として、電気カーペットの上にマットレスを敷く方法や、段ボールを広げてマットレスの下に敷く方法が有効です。また、ホームセンターなどで販売されている50cm角の床用マットを、マットレスの下に必要な枚数だけ敷くのも効果的です。これらの対策により、床からの冷気を遮断し、応急的ではありますが、床暖房のような保温効果が得られます。

異常気象の秋春におすすめの端境期の寝具選びのポイント

近年の異常気象により、秋と春という本来は過ごしやすいはずの季節にもかかわらず、気温が極端に変動するようになっています。三重大学の立花義裕教授も、季節が「二季化」しつつあると指摘しており、秋と春の中間的な気候が失われつつあるのが現状です。

実際に秋春の端境期では、ある日は夏日、翌日には冬日になるなど、日ごとの寒暖差が非常に激しく、朝晩の気温差も大きくなっています。まるで春と秋がなくなり、夏と冬の二季だけが繰り返されているかのような感覚すら覚えます。

このような気候変動下では、寝具選びにおいて「優れた温度調節機能」がますます重要になってきます。特に、掛け布団には、暑すぎず寒すぎない寝床内環境を保つ性能が求められます。

下図は、夜間から朝方にかけての寝床内部の温度変化を示したものです。中央の黄色いゾーンは、快適とされる33℃±1℃の温度帯を示しており、赤は暑く感じる領域、青は寒く感じる領域を表しています。

寝床内部を快適温度帯と温度変化を表した図

異常気象の影響により、赤や青で示される不快な温度帯が拡大する傾向にあります。つまり、快適な睡眠を妨げる時間が増えているということです。そのため、これらの領域を可能な限り小さく抑える寝具の温度調整力が、ますます重視されています。

さらに、下の図では時間軸に沿って寝床内の「不快な時間帯」を視覚的に示しています。一見、快適に見える睡眠中の温度環境も、実際には多くの時間が暑すぎる、または寒すぎる状態であることが分かります。

時間軸に沿い寝床内部が不快だと感じる時間を色分けした図

このように寒暖差が激しい端境期には、「常にちょうど良い」寝具を用意するのは現実的ではありません。そのため、気温の変化に柔軟に対応できる“ベターな寝具”を選ぶことが現実的であり、重要なポイントとなります。

人は寝返りを打ったり布団をはぐ、かぶるなどして、無意識に温度調整を行っています。そうした行動を自然にサポート(温度調節)する寝具こそが、快適な睡眠を実現する鍵を握っているのです。

季節の変わり目の端境期におすすめの掛け寝具

掛け布団の中でも、温度調節機能に優れているのは羽毛布団です。特に秋や春の端境期には、冬用羽毛布団の羽毛量を50%〜60%程度に抑えた、600g〜700g入りの「合い掛け羽毛布団」がおすすめです。

真冬ほどの寒さではないため、安価なダックダウンでも良いと思われがちですが、寒暖差が大きいこの時期には注意が必要です。温度変化の激しい季節には、上質なグースダウン(400dp以上)の羽毛布団が快適に過ごすための選択肢となりますが、なかでも特におすすめなのが、より保温性と調湿性に優れたマザーグースダウン(430dp以上)を使用した羽毛布団です。

端境期におすすめの敷き寝具

寝床内の6割の熱を放熱しているのが敷き寝具です。敷き寝具の性能が快適な寝床環境を左右すると言っても過言ではないでしょう。暑すぎず寒すぎない環境は繰り返し申し上げていますが「空気層」を働きによるものです。

敷き寝具において適温でかく蒸れ感が軽減できる寝具と言えば、天然素材そのものであるムートシーツか中綿入りのムートンパッドです。

端境期におすすめの寝具の工夫

寒暖差の大きい春や秋の端境期には、ちょっとした工夫で寝心地を大きく改善することができます。

足元に大判のバスタオルを掛けたり、タオルケットを横に置いておいて寒くなった時にさっと掛けるなどの工夫で、寒暖差のある夜も快適にお休みいただけます。

まとめ

熱帯夜や寒冷夜、そして春や秋の季節の変わり目に起きる異常気象は、眠りにくさの原因になります。気温の急な変化は、体温の調整を難しくし睡眠の質を下げてしまいます。

快適に眠るためには、温度や湿度の変化に対応できる寝具を選ぶことが大切です。特に、空気の層をうまく使った寝具は、暑さや寒さをやわらげてくれるのでおすすめです。

自分の体質や住んでいる地域に合わせて、掛け布団や敷き布団を工夫しましょう。寝具を見直すことで、どんな季節でもぐっすり眠れる環境がつくれます。

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